健康診断で胸部XP検査を行う意義について
健康診断の目的は、検査を通じて早期に病気を見つけて治療の機会を作り、障害の発生を予防し、治癒やQOLの維持向上をめざすことにあります。
胸部XP検査で発見できる病気には色々ありますが、健康診断において大きく貢献できる病気として、肺癌と肺結核を挙げたいと思います。
肺癌は、男女ともに罹患数は第3位(男9万人、女4万人 全国がん登録罹患数・率報告2020年)で癌の中でも高い頻度であり、死亡者数(2023年人口動態統計)では男では部位別がん死亡数の第1位(5.3万人)、女でも第3位(2.3万人)であり、命を奪う可能性が高い癌の一つです。発病早期は無症状であり、進行するほど治療の選択肢が狭まり死亡率が高くなります。肺癌の種類にもよりますが、例えば肺野末梢にある非小細胞肺癌の場合、早期に見つけることができれば、手術により5年生存率99.7 %が得られています。逆に、非小細胞肺癌の発見が遅れて腫瘍が大きくなり、転移もして手術ができないと、5年生存率は8%程度です。健康診断を定期的に受けて肺癌を早期に発見する意義がここにあります。
また、喫煙者は肺癌になるリスクが髙くなりますので、禁煙に挑戦するとともに健康診断を定期的に受けて肺癌の早期発見の機会を自ら作って頂ければと思います。
次に、肺結核は、空気感染した結核菌により、肺に炎症による病巣を作る病気です。日本では2021年に低蔓延化しましたが、高齢者ではまだ罹患率が高いです。肺結核も発症初期は症状がないことが多く(特に高齢者は進行しても呼吸器症状が強く出ない場合あり)、進行すると病巣が増えて肺の機能が低下し、咳をした時に空気中に結核菌を排出するほど悪化すると、周囲の者に感染させてしまいます。肺に炎症を起こす病気なので、胸部XP検査で発見できます。早期発見することにより、治療成功率が高くなりますし、病巣の拡がりを最小限にできれば、肺機能の低下も少なくて済み、周囲の者への感染リスクも予防することができます。罹患率の点から見れば、高齢者と結核高蔓延国出身者は定期的に健診を受けて早期発見に努めることをお勧めしたいです。
胸部XP検査で発見できる他の病気としては、呼吸器疾患については肺炎、肺線維症、胸膜炎、気胸など、骨疾患については骨折や側弯、その他の臓器については横隔膜ヘルニアや心拡大などが挙げられます。撮影した場合の被ばく量は、1回あたりで非常に低く(0.06mSv)、身体に影響の出る被ばく量(200mSv)よりはるかに低いです。
Sv(シーベルト):生体の被曝による生物学的影響の大きさの計量単位。
田川副所長